nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

中山嘉之『ITアーキテクチャのセオリー: システム構築の大前提』を読んだ

honto.jp

仕事で参加することになったプロジェクトがこの本の一部内容を取り入れているというので、とりあえず読むことに。自分はプログラマなので、アーキテクチャと聞くと、モジュールをどのようにデザインするかを想像するのですが、本書のターゲットはもっと視野が広く、一企業の中に存在するさまざまな基幹系システムや情報系システムをいかに統治するのかというところにスコープがあります。なのでどちらかといえば本書は企業のIT戦略を担当するような人がシステムのグランドデザインを考えるときに読むような本だといえます。

本書のメインアイディアはエンタープライズデータHUBの導入です。これは企業内において発生するマスタデータ・トランザクションデータをクレンジングされた状態で保持するシステムのことで、企業内の各システムは活動中に発生したデータをこのエンタープライズデータHUBに送り付けるとともに、他システムのデータが必要になる場合は、エンタープライズデータHUBからもらい受けるようにします。こうすることで企業内において正しいデータがどこにあるのかがはっきりするととともに、システム間の関係が疎結合になるため、企業として変化に強いIT戦略を立案・実践できるようになるという理屈です。

筆者はさる企業にてこのエンタープライズデータHUBを利用したシステム構築に長年かかわっていたようで、本書にはエンタープライズHUBの導入から運用までのこまかなノウハウが多く記載されています。要するに本書は実務家によって書かれた本であり、エンタープライズHUBは机上の空論ではなく、実践に耐えられる内容であるということです。こういう筆者の背景が見えるというのも本書の信頼性を向上しているといえます。

エンタープライズHUBによってデータを中央集権的に管理して、企業内システムに秩序をもたらそうというのは理解したのですが、個人的に気になるのはエンタープライズHUBが単一障害点にならないのかということ。仮にエンタープライズHUBが大障害を起こした場合、企業内のすべてのシステムに影響が及ぶわけです。また、このエンタープライズHUBを導入するに当たっては、企業のIT戦略のグランドデザインに手を入れる必要があり、しかも筆者はエンタープライズデータHUBやそれが保持するスキーマの維持をベンダーではなく自社要員が実施することを強く推奨しています。これにもベンダー依存からの脱却と自社開発へのシフトという、戦略の見直しと新しい文化の醸成が不可欠なわけで、そっちのほうが大変じゃないかなーと思います。CXOなど強い権限を有する人間がトップダウン的にやらないとだめでしょうね。

しかし総じて良い本でした。本書はベンダ側ではなく企業側の危機感に応じる形で書かれたものだと思いますが、自分のようにベンダにいる人間が読んでも学びになる1冊かと思います。ちなみにこの本の思想を取り入れているとかいうプロジェクトについては--ノーコメントでお願いします…。 一知半解ダメゼッタイ(´・ω・`)