nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

『限界分譲地 繰り返される野放図な商法と開発秘話』を読んだ

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主として高度経済成長期に乱開発され、その利便性の悪さから空家・空地として現代まで放置されている分譲地。本書のタイトルにある限界分譲地をひとことで言い表すとこうなるでしょう。土地を買う=そこに家なり工場なりを建てて、その土地を活用するという現代の価値観ではなかなか信じがたいですが、高度経済成長期は土地の値段がどんどん上がる時代で、ある種の投資商品として土地が買われていました。要するに、自分で住むためではなく、将来値段が上がった際に売って利益を上げるために分譲地を買っていたわけです。ちなみに首都圏の通勤需要、開発規制のゆるさ、成田空港開港にともなう周辺需要の高まりなどの理由から、こうした投資用分譲地は千葉県北東部に多いとのこと。本書のメインターゲットもこのエリアになります。

もっとも本書が取り上げているような土地は値段があがることはありませんでした。むしろ土地の値段は下がり、現在では0円でも買い手がつかないケースも少なくないようです。理由はその利便性の悪さ。鉄道駅やバス停など公共交通機関へのアクセスが悪い・上下水道が整備されていない・駐車場や道路が過去の感覚で造成されており、現代の自動車で利用するには狭くて使いにくい・ミニ開発のせいで田舎のくせに分譲地が狭い――など、あげだせばきりがありません。80年代後半から90年代後半のバブル期にはそういった土地を活用しようと、家やアパートの建築ラッシュがおきたこともあったようですが、やはり上述したような理由から、住む人はおらず、空家・空アパートとして放置されていることも珍しくないとか。

本書はこうした限界分譲地の成り立ちからの歴史を紹介しつつ、その現状・将来・展望までを詳しくリポート。また、限界分譲地と性質が似たリゾートマンションや別荘地についても紙幅が割かれています。筆者がこうした限界分譲地の一画に実際に居住していることもあり、戦後日本の土地政策の失敗としてセンセーショナルにあおるのではなく、より現実感・生活感があるルポになっているのが本書のよいところです。

なお本書をチェックするきっかけになったのが、筆者のYoutubeチャンネル。ニッチなジャンルながら、内容の濃密さや独特の語り口で、いまや登録者10万人を超える人気チャンネルです。こちらのチャンネルの動画は本書の内容とリンクしていますので、観ると本書の理解が深まるかと思います。また、別に単著もあり、こちらも面白かったので、興味がある方はぜひ。

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