nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

日経コンピュータ編集『システム障害はなぜ二度起きたか: みずほ、12年の教訓』(日経BP社)

システム障害はなぜ二度起きたか みずほ、12年の教訓

システム障害はなぜ二度起きたか みずほ、12年の教訓

  • 他行で実績のあるシステムの片寄せではなく、新規開発。
  • ハードウェアとソフトウェアが密結合なメインフレーム基盤にもかかわらず、基盤とアプリを分割調達。
  • 大手SIer1社に音頭を取らせるのが通常だが、それを行っている形跡がない。
  • 銀行=システム産業にもかかわらず、システム担当の取締役がいない。システム子会社の実力もかなり怪しい。
  • コーポレートガバナンスコンプライアンスがさほど機能していないともっぱらの評判。

などなど、書き出せばきりがありませんが、大規模システムの構築の常識からかけ離れたプロジェクトマネジメントを行っているとして、インターネットIT好事家からは熱視線(ex.「SI界のサクラダファミリア」「サクラダファミリアのほうが先に完成するのでは?」)が寄せられていることで知られる、みずほ銀行の勘定系刷新プロジェクト。それにしても、素人目にも勝算が低いとわかるこのプロジェクトになぜみずほ銀行は乗り出してしまったのか? 本書はその理由となる、2002年と2011年のみずほ銀行の大規模システムトラブルのルポタージュといってよいでしょう。

本書はざっくり4部構成になるのですが、面白かったのは前半2章。つまり実際にあったシステム障害のルポ部分であり、保守運用経験者の視点から読むと非常に胸が痛くなる内容でした。詳しい内容は本書に譲るとして、2つのシステム障害の真因は「システム投資、とくにシステム運用をけちった」ことだと思いました。直接金を生み出すわけではない情報システムとその運営にはできるだけ金を使うべきではない、というのは事業会社の在り方としてはある一面正しいのですが、銀行のように業務とシステムが密結合な業態だとそうはいかないということが、偉い人にはわかっていなかったのだと思います(´・ω・`)

またここ数か月保守運用をしている身として感じるのは、SI業界の保守運用軽視の傾向。設計開発が花形で、テストはその一段階下、保守運用は最底辺というような妙な身分制があり、このあたりの風潮がSIにおんぶにだっこなみずほ銀行につたわり、結果として運用ミスによるシステム障害が発生したのでは……と個人的には邪推していました。

後半はシステム構築および保守運用プロジェクトに関する一般論が述べられているところであり、学びが少ないというか、「ふんふん、確かにそうだね」という感じ。その内容は確かに正論ではあるものの、ではなぜその正論が実践できないのか? その視点が欠けているようには感じられました。もっとも本書を執筆したのは日経コンピュータの記者陣。つまりSIを生業にしておらず、その職業の性質上個人プレーが多くなりがち。それだと、出入り業者に過ぎないSIerの悲哀や組織運営やチームビルディングの難しさは、実感としてわからないのかもしれませんね(´・ω・`)