nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

最近読んだノンフィクション: 『ドキュメント 五代目山口組』『モンスター』『誘蛾灯』『浅草博徒一代』

ここ1-2か月で読んだノンフィクションのうち、面白かったものの感想をブログに書き残しておきたいと思います(´・ω・`)

溝口敦『ドキュメント 五代目山口組』(講談社+α文庫)

ドキュメント 五代目山口組 (講談社+α文庫)

ドキュメント 五代目山口組 (講談社+α文庫)

昨今世間をにぎわしている山口組3分裂に関する同著者のルポを以前に読んだことがあり、本書がテーマとしている5代目組長がそのルポで大変批判的に扱われていたということから興味をもって手に取った1冊です。その批判的な論調はルポが書かれた20年前(=本書の出版年)とほとんど変わらず、この5代目は山口組という巨大組織をすべるほどの器ではなかった。合理主義的で経済にも明るく、やくざ内政治もうまいという点では近代的で先駆的ではあったが、山口組ひいては暴力団全体の気質を変化させてしまった――というのが本書の5代目組長への評価となります(ただ本書はほとんど触れていませんが、このようなタイプの組長出現は当時の経済状況=バブル経済があってこそのことだとは思います)。先述したルポでは山口組の分裂のきっかけをこの5代目組長の就任に見るのですが、それを予見したような記述を20年前に行っていることに驚かされます。

そういえば、繰り返し話題に挙げた「ルポ」ですが、その書評をブログに乗せていたことを思い出しました。そもそも「ルポ」を買って読んだのは「hontoのメルマガが執拗に進めてくるから」という、自分でもどうかしているとしか思えない理由でしたが、ただ読んでみて勉強になったことは確か。なんでも食わず嫌いせず読んでみるものですね(´・ω・`)

nekotheshadow.hatenablog.com

一橋文哉『モンスター: 尼崎連続殺人事件の真実』(講談社+α文庫)

モンスター 尼崎連続殺人事件の真実 (講談社+α文庫)

モンスター 尼崎連続殺人事件の真実 (講談社+α文庫)

ひとりの老婆を中心とした、血縁関係のない「ファミリー」が金を目当てとして次々に人を殺めていく――3流サスペンスやホラーの筋立てとしか思えない尼崎事件を覚えている方は多いと思いますが、本書はこの「老婆」の生い立ちから事件の一部始終を丹念に追いかけています。凶悪犯罪が発生すると、その事件の裏に何か深刻な社会的事情があったのではないかととりざたされますが、本書を読む限り、尼崎事件はそのような社会的事情とはかけはなれた特異点的な犯罪だと感じました。

まず「ファミリー」という形態が異常そのもの。そもそも血縁関係婚姻関係がない人間と共同生活を送る、そのうえ新しい名前を与えるという点で、一般常識から乖離していますが、その裏では凄惨な暴力をくわえて、正常な思考能力を奪う。そうして膨れ上がった「ファミリー」の豪奢な生活を維持すべく、財産を目的として、よその家庭に入り込み、果ては殺人まで行きつく場合もある――と聞くと、この原因を社会一般に帰するのはかなり厳しいように思います。筆者はこの「異常」の要因を「老婆」の生い立ちと彼女が心酔していたとある暴力団員にあると結論付けていますが、正直にいって納得いきかねます(´・ω・`) 事実は小説より奇なりということでしょうか。ただこの「のっとり」にあった家庭はどこにでもある「普通」の家庭であり、「異常」の発生が社会と無関係に起こるとしても、その「異常」に巻きまれる可能性は十分にあるということを思い知らされます。

青木理『誘蛾灯: 二つの連続不審死事件』(講談社+α文庫)

必ずしも見目麗しいというわけではない女性に多くの男たちが入れあげ、金を貢げるだけ貢いだあとに不審死を遂げていく――と聞くと首都圏連続不審死事件が想起されがちですが、同時期によく似た事件が鳥取でも起きており、本書はその鳥取連続不審死事件を取材したものとなります。資産家令嬢を装った容疑者が婚活パーティを通じて知り合った独身男性に貢がせて殺害(?)する。そして逮捕/収監/死刑確定後も裁判の場やブログメディアを通じて自らのアピールを続けるという点で、前者はどこか都会的な劇場型犯罪、昔かたぎな単語を使えば"アプレ犯罪"のような様相を見せていたのに対し、後者は土俗的というか、俗っぽい言葉をつかえば「どろどろ」とした印象を持ちました。

疲弊した地方都市の、常連客だけしかいないようなスナックに勤務する肥満体のホステス。そのうえx2で5人の子供を持つシングルマザー。そんな彼女に男たちが入れあげ、結果として不審死を遂げていくのだが、その男たちはいわゆる"ダメンズ"ではないどころか、新聞記者や景観などお堅い職業が多く、しかもそのほとんどが妻子持ち。本書によると容疑者の女は病的なうそつきで、男性を支配する才能の持ち主であったようですが、それにしても「社会的に立派な人々がなぜこんな女に?」という印象はぬぐえませんでした。本書は「どんな家庭にもあるちょっとした不和に入り込んでいく才能を女が有していたこと」と「経済的にも文化的にも疲弊していく地方都市」をこの不可思議を説明するファクターとして繰り返し挙げているのですが、それもどこまで当たっているのか。やはり事実は小説より奇なり(2回目)。ルポタージュを読む面白さはこういうところにあるのかもしれません。

佐賀純一『浅草博徒一代: アウトローが見た日本の闇』(新潮文庫)

浅草博徒一代―アウトローが見た日本の闇 (新潮文庫)

浅草博徒一代―アウトローが見た日本の闇 (新潮文庫)

大正から昭和にかけて浅草に勢力を張った博徒の晩年にインタビューを試みた筆者がそのインタビューを物語風に再編成したものになります。まず「博徒」という生き方・職業があること自体が勉強になりました。社会の風紀を乱すということで、いつの時代もばくちやギャンブルはご法度。しかし需要あるところに供給ありというのも世の常です。品物がご禁制であり、国家権力としては存在してはいけない職業であることから、記録にきちんと残されているわけではありませんが、職業として存在する以上はそこには独特の美学や倫理観や経済制度があり、その一端を知ることだけでも十分勉強になります。また裏街道から見る社会を知ることで、読者の社会理解に多様性をもたらすものだとわたしは思います。

ただ本書の魅力はそれだけではありません。本書が取材する博徒が送った、その波乱万丈の人生は下手な小説などよりはずっとドラマチック。大正から昭和初期という激動の時代に博徒という文字通りやくざな生き方を選んだ男の一代記に読みごたえがないなんてあるはずがないのです。これで3度目になりますが、やはり事実は小説より奇なり。出版社のマーケティングとして、ミュージシャンとしてはじめてノーベル文学賞を受賞したボブディランが「ぱくった」本として本書を売り出していきたいようですが、そういう好事家観点だけで読んでしまうと大変損をするので、お気を付けください(?)。