nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

大藪春彦『日銀ダイヤ作戦』読了。

日銀ダイヤ作戦 (角川文庫 緑 362-38)

日銀ダイヤ作戦 (角川文庫 緑 362-38)

 大藪春彦を代表する伊達邦彦シリーズの第3長編です。以前にも本ブログで伊達邦彦については扱っていたような……と思い調べてみましたが、扱っていませんでした。ただ初期短編集のひとつは記事にしており、その際言及しているようです。

 伊達邦彦は大藪春彦のデビュー作『野獣死すべし』(1958)において初登場しますが、その際は腕っぷしのきく大学院生にすぎませんでした。その後紆余曲折があり、本作ではイギリスの秘密エージェントとなって、日本銀行の金庫からダイヤモンド(総額250億円)を奪取する役回りを演じます――いやはや変貌しすぎですね。『野獣死すべし』では1000万円程度を強奪して大喜びしていた姿はいったいどこに行ってしまったのか。なかなか興味深いところです。

 伊達邦彦シリーズというより大藪春彦作品全般について、時代が進むにつれて関わる金額が大きくなり、国際性や謀略性が強くなっていきます。また『野獣死すべし』のころは青春小説的な趣が全般に出ていたものの、これも年々失われ、より痛快なエンターテイメントへとかじを切っていきます。そういう意味では本作は伊達邦彦シリーズおよび大藪春彦の転換期に位置するといえるかもしれません。

 また大藪春彦を語るうえで欠かせないのがセックス。大藪春彦作品の主人公はセックスアピールに満ち満ちており、気に入らない女を組み敷いて犯しているうちに女の方が従順になりだすというアダルトビデオも真っ青な展開がざらにあるのですが、こうした女性嫌悪的な男性性を発露する傾向は後年になって強くなるのであり、本作ではそれほど現れてはいません。もちろん伊達邦彦のセックスによって女性が籠絡される展開はあるものの、見かける女が片端から股を開くという極端なところまでいっておらず、そういう点でも本作は転換期にあたる作品といえるのではないでしょうか。