nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

鮎川哲也『鍵孔のない扉』読了。

 鮎川哲也を代表する「鬼貫警部シリーズ」のひとつ。文庫本は絶版ですが、電子書籍は手に入る模様。

鍵孔のない扉 光文社文庫―鬼貫警部シリーズ

鍵孔のない扉 光文社文庫―鬼貫警部シリーズ

 個人的には鮎川作品の魅力は大きく2つに分けられると感じています。

 ひとつはその本格小説性。解説(宮沢和夫)曰く  

 いくつかの要素が一見脈絡のないもののように投げ出され、事件の全貌は霧を通して見るように茫洋としている。
 その輪郭が次第にはっきりと現れてくる過程で、我々は「整理の快感」ともいうべきものを感じる。これが鮎川長編前半の大きな魅力である。
 (中略)
 それに続く後半の見どころが、愛読者から待ってましたと声のかかるアリバイ崩しである。(pp.391-400)

 次に文学性とでもいうべきでしょうか、鮎川作品特有の「荒々しい情緒」も魅力のひとつであると思います。

 本作も本格推理小説でありながら、ひとりの男の孤独や苦悩あるいは再生が力強く描かれています。またそれを妙に簡潔で客観的に描写しているために、ある種独特の文学味があらわれているといっても過言ではないでしょう。

 本格推理小説でありながら「ハードボイルド文学」でもある――わたしが鮎川作品に求めるところが本作には十分詰まっていたように思います。