nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

細川義洋『なぜ、システム開発は必ずモメるのか?: 49のトラブルから学ぶプロジェクト管理術』(日本実業出版社)

なぜ、システム開発は必ずモメるのか?

なぜ、システム開発は必ずモメるのか?

「どのようにしてプロジェクトをうまく進めるのか」に関する手法やメソトロジーは世間にさまざまあって、たとえばPMBOKなどはその王道であるし、システムの保守運用フェイズであればITILも有名である。アジャイルスクラムエクストリームプログラミングなどもそれぞれ焦点は違えど、極言すればプロジェクト運営のための方法論だといってよい。

ところで日本のIT業界の保守本流はいわゆるSIであり、わたしもその末席に名前を連ねているが、そうした世界では上記であげたような手法が必ずしも有効活用されているわけではないと感じている。現場のSE、なかでもPMは忙しすぎて、そうした知識を学ぶ時間がないから--というのは冗談。日本のSI業界が特殊--というのは言い過ぎだが、プロジェクトマネジメント系の手法の大半は外国生まれ外国育ちで、それを四角四面に日本のSIプロジェクトに適用するのが難しい場合があるのは確かだと思う。

本書がよいところは視点が極めて日本的というか、日本的商慣習のもと実施されるシステム開発プロジェクトにおいて、はまりやすいポイントが適切に解説されているところにあると思う。とりわけ対顧客折衝や下請け管理など、THE JAPANESE SIにおいて重要とされ、ゆえにおうおうにして火薬庫になりやすいポイントについて、その原因と対策をここまで簡潔に書き出されている書籍は珍しいのではないか?

また筆者が裁判所の調停員のようなことをやっているらしく、その関係で「こういうトラブルのときに裁判所はどのように判断するのか」という視点が盛り込まれているのも本書の長所のひとつである。システム開発プロジェクト炎上の究極系は裁判であり、いってしまえばSIerとしてはトラブったとしても、この裁判に勝ちさえすればよい。裁判所の判断というのは、国家権力という極限の実行力を有した判断基準であり、それに従いつつ仕事を進めていくのは悪いことではないと思う。

本書は小説形式、というよりはネットスラングでいうところのSS形式を採用していて、読みやすいといえば読みやすい。ただキャラクタ類型がやや古いというか、正直なところ「10年ぐらい前の感覚で書いているな」という感想を持ってしまった。物語作品としてまじめに読もうとすると厳しい面はある。そこは本作の大事な部分ではないし、もとがSIのトラブルとその対策集をSS化するという無茶をやっているわけで、まあ許容範囲ではある。