- 作者: フォークナー,加島祥造
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1955/06/01
- メディア: 文庫
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フォークナーといえばアメリカ南部を代表する作家のひとり。とりわけひとつの世界観をいくつもの作品で共有するスタイルは中上健次をはじめ、日本の純文学作家にも強い影響を与えています。
本作はフォークナーの長編としては5作目、ヨクトパトウファ・サーガのひとつとしては4作目にそれぞれあたります。ただし個人的にフォークナーの作品を読むのは初めてなので、もしかしたら十分に理解できていないかもしれません……。
読んでみて思ったこととして2点。
まずとにかく「暗い」ということ。物語を通して誰も救われない。出てくる登場人物誰もがアメリカ南部の因習にとらわれ、ひどい目にあっている。一般的に「暗い」物語は「明るさ」の裏返し、つまり「若々しく萌える生命」のようなテーマを強調するためにその背景を凄惨なものにしていることも多いのですが、本作にはそういうことはまったくありません。ただただ陰鬱。読んでいて気がめいりそうだったのも事実です。
次に感じたのはシーン転換の独特性。あらゆる小説はいくつかの場面をつなぎ合わせることによって作られており、一貫した物語を語るうえでどの場面を抽出するか、あるいは選ばれた場面をどのようにしてくっつけるかは、小説創作においてとりわけ重視すべき問題です。もしかすると作家性、作家の独自性がもっとも強くあらわれるところかもしれません。
本作は非常に独特なチョイスでシーンが選択され、また独特の感覚でそれらがくっつけられているとわたしには感じられました。ただし本作が発表されたのは1931年。禁酒法など、キリスト教的道徳による締め上げがアメリカ全土を覆った時代であり、残虐なシーンや性的なシーンは出版規制のもと、書くことができなかった可能性はありますが。もちろんそれを考えても、作者フォークナーのセンスは非凡なるはずです(歴史に残る作家に対していうのもあれですが)。
テーマは土俗的で、書き方は実験的――もちろん描かれているのは「大恐慌やニューディール以前のアメリカ南部の閉鎖性」という時代限定的なものかもしれませんが、その根底に流れる態度には普遍的なものがあるように感じます。日本の多くの先鋭的な作家たちが影響されるのもよくわかるように思います。