- 作者: ガストン・ルルー,日影丈吉
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『黄色い部屋の謎』は本格推理小説を振り返るうえで忘れてはならない作品というのはご存じだと思います。
『黄色い部屋の謎』が発表されたのは1907年。それ以前の推理小説において、いわゆる「密室」ものは動物トリックが多くを占めました(ねたばれ防止のため、実例はあげません)すくなくとも現代にまで残る当時の「密室」ものの傑作は動物がかぎとなったものばかりです――もうお分かりでしょう。『黄色い部屋の謎』では動物をまったく利用していないのです。
しかも読者にすべての手がかりが提示され、かつそこで披露される推理は極めて論理的。要するに現代的な本格推理小説の「密室」ものの先駆けとして、『黄色い部屋の謎』は評価されているわけです。こういうのを「ミステリ史的に価値がある」というのでしょうか。
ですから(?)現代人が『黄色い部屋の謎』を読むと「ううむ……」となりかねません。本格推理小説でも「密室」は王道中の王道ですから、傑作は星の数ほどあります。しかも科学が進歩するようにミステリも日進月歩。ですので「密室」も日々高度になっていきます。そういう作品を読み慣れた、あるいはそういう作品をベースに鑑識眼を養った現代の読者にとって、『黄色い部屋の謎』は陳腐というか、ややお粗末に見えるやもしれません。
つまり『黄色い部屋の謎』は歴史性こみの「傑作」というわけです。まあ「歴史性」という面だけでも読む価値ありですが(そう思うのはわたしが世間一般でいうところの「ミステリ・ファン」だからかもしれません)
閑話休題。繰り返すように本作は『黄色い部屋の秘密』の続編にあたります。ですが、それほど「ミステリ」していません。確かに探偵が最後に推理を行うものの、全体としてはスリラーとかサスペンスとかに分類すべきでしょう。
ミステリというより「読み物」として面白いということですね。あとはやはり『黄色い部屋の謎』の続編という観点からしても、なかなかよい出来です。前作を読んでいれば、感動もひとしお。そういう意味では、完全な続編ということですので、『黄色い部屋の謎』をお読みになっていない方はご注意を。はっきりと『黄色い部屋の謎』のねたばれがなされていますので。