いわゆる積読を消化する中で、偶然にも偽書に関する本をたてつづけに3冊読んだので、読書メモを残しておきます。
筆者は
青森県の地方紙である
東奥日報の記者で、ちょっとしたきっかけから、「
東日流外三郡誌」という
青森県五所川原市の古民家から見つかった謎の古文書にかかわることになります。「
東日流外三郡誌」は
記紀以前の歴史物語がひそかに受け継がれてきたという触れ込みでしたが、実際には現代に作成された
偽書であり、しかも作者は古民家の所有者兼「
東日流外三郡誌」の発見者でした。本書は取材の中で「
東日流外三郡誌」が発見者により作成された
偽書である証拠を積み上げつつ、「
東日流外三郡誌」が東北地方の小さな町や
歴史学界を巻き込んで引き起こした騒動を記述するルポタージュです。筆者が新聞記者ということもあり、文章はかなり読みやすく、内容はまるで冒険小説か
推理小説かのようで楽しく読みました。
日本書紀や
古事記以前の歴史、いわゆる超古代史を記述したとされるいくつかの
偽書について、それぞれの
偽書の成立やその背景や受容史などを詳細に解説した一冊です。最終的には、人類がなぜ
偽書を創作してしまうのか、そして、
偽書のたいていは粗雑で稚拙な内容にもかかわらず、それを信じてしまう人が現れてしまうのか、という観点にまで踏み込んでいます。エンタメ的に面白いというよりは、ちょっとお堅め・まじめな内容でした。
馬部隆弘 『椿井文書: 日本最大級の偽文書』(中公新書)
これは
偽書というよりは偽文書に関する本だといったほうが適切かもしれません。タイトルの椿井文書とは、
山城国出身で
興福寺に仕える侍であった椿井政隆なる人物が17??-18??ごろに作成した一連の文書で、とくに
畿内を中心に数百点ほど残されています。問題は、特定の人物が近世に作成されたものにもかかわらず、中世の文書やそれを引き写したものかのように見せかけている点にあります (作者も複数人を装っている)。なお悪いことに、それらが近畿一円に大量に残っていること、(近世の創作であるから当たり前だが)中世の歴史的事象と合致する部分が多いこと、などなどの事情から、現代でも疑いなく活用されており、
郷土史に組み込まれたり、史跡指定の根拠になったりしているとのことです。本書は椿井政隆が偽文書づくりに手を染めたのか、それがなぜ近畿一円にばらまかれたのかといった疑問を近世史の観点から読み解きつつ、現代において椿井文書が正しいものとして扱われてしまった事情や理由にまで踏み込んでいます。