nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

水谷竹秀『だから、居場所が欲しかった。 --バンコク、コールセンターで働く日本人』(集英社)

コールセンターというと、カスタマーサポートにはなくてはならない存在ではあるものの、労働集約型で特殊な技能が求められず、かつ所在地がどこにあってもよいという特性からBPOの一環としてニアショアリング・オフショアリングの対象になりやすい。日本国内だと、沖縄や北海道などに多く、IT系だと国境をまたいで大連などにコールセンターを設けることもある。とくに外資系ベンダだと、オフショアリングの割合は高まり、カスタマサーポートに電話をかけると、中国人が流ちょうな日本語で対応するということが日常的に行われている。

本書はタイにオフショアリングされたコールセンターで働く人々に関するるポータージュであるが、先ほどの例と違って、働いているのは現地人ではなく、日本人である。わざわざタイのコールセンターで働く人というのはどのような人たちなのか? 基本的には日本社会で生きづらさを抱えている人々である。非正規雇用を転々としたり、家庭環境が悪かったりで、「なじめない日本社会にいるよりはましかもしれない」と心機一転タイへやってくるのだが、在タイ邦人社会にも階層があって、なかでもコールセンターで働く人は最底辺に位置づけられる。物価の安いタイ社会において、日本にいるよりは"豊かな"暮らしを送ることはできるものの、かならずしも"裕福"とはいえない生活の中で、なおもかれらはコールセンターで働き続けている。

サブタイトルには「コールセンター」とあるが、本書はそれ以外も取材を行っている。たとえばタイは売春産業が盛んなことで知られるが、これは男性向けばかりではない。つまり女性が男娼を買うことも一般的であり、日本人女性がゴーゴーボーイ相手に派手に遊びまわる光景も珍しくないという。あるいはタイは同性愛にも寛容な文化であり、その寛容さにひかれて、いわゆるLGBTと呼ばれる人々が遊んだり移住したりすることも多いようだ。

本書を読んで強く感じるのはタイ社会の寛容さであり、その対象として日本社会の不寛容さである。タイに縁にゆかりもない日本人が働けるのは、そもそもタイ社会がそのような異邦人に寛容であるからで、逆にいえば日本社会は同じ日本人でも、レールからはずれたものは遠慮なく弾き飛ばしてしまう。男娼を買う女性もLGBTも同じことで、日本社会の不寛容さとともに、タイ社会のふところの広さを感じざるを得ない。