nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

ここ2-3か月の読書メモ: 新書編

趣味の読書の中で面白かった本、学びが大きかった本については読書メモをブログに残すことをこころがけているのだが、ここ最近は忙しくて読書メモをさぼりがち。しかし珍しくまとまった休みが取れた(要はGW)ので、ここ2-3か月で読んだ本のうち、とりわけ新書の読書メモを記事化しておきたいと思います。

兵藤裕己『後醍醐天皇』(岩波新書)

鎌倉幕府が倒れた理由として、元寇や分割相続による御家人の疲弊があげられがちであるが、しかしその討幕の中心人物が有力御家人でも貴族でもなく、後醍醐天皇だったのか。本書は多様な観点から後醍醐天皇を読み解いた評伝であり、当時最新鋭の学問であった宋学や仏教などの影響が語られているのが印象に残った。また後醍醐天皇は討幕にあたって、中小貴族や悪党などの非御家人層をとりこんだわけだが、ではなぜそうした層を取り込むことができたのか。個人的にはあまり着目してこなかった観点に対して、合理的な説明が述べられており、勉強になることだらけだった。ちなみに本書によると、後醍醐天皇に仕えた怪僧文観を真言宗立川流の祖とするのは俗説だそうです。残念(←何が)。

川端裕人著、海部陽介監修『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(ブルーバックス)

人類の進化というと、直線的な進化イメージを抱きがちである。つまり時間を経るにしたがって、猿人が原人に、原人が旧人に、そして旧人が新人になり、その進化にともなって人類の生活領域もアフリカから地球全土に広がっていったというイメージだが、本書によるとこのような単純な見方は間違っており、実際にはさまざまな種類の猿人や原人が世界各地におり、それがホモ・サピエンスに統合されていったというのが正しいらしい。本書はその1例として、ジャワ原人をめぐる最新の研究動向を紹介している。

倉本一宏『藤原氏 --権力中枢の一族』(中公新書)

日本史の勉強をしていると、とりわけ大化の改新から平安時代にかけて、いやというほどその名前を見かける藤原氏。また摂関政治以後も「コップの中の嵐」ではあるものの、朝廷内の権力を握り続けたのだが、それにしても藤原氏はなぜそこまで偉かったのか? 本書によれば、その生存戦略は時代によって変化するものの、基本的には天皇のミウチでありながら、皇位継承競争からは外れるという独特のポジションをキープし続けたことにある。天皇からしてみれば、親戚でありながら皇位を簒奪しないということで信頼がおけるし、藤原氏にとっても「ミウチ」という単なる貴族よりも上の立場で政治へ関与できるため、メリットが大きい。あと氏内で権力闘争をすればよいだけなので、藤原氏は大変賢い一族であったということが分かる。

田中一郎『ガリレオ裁判 --400年後の真実』(岩波新書)

ガリレオ裁判というと、無知蒙昧で前時代的なカトリック教会が一方的に科学者ガリレオを断罪したというような、いわばガリレオ英雄史観が語られがちであるが、本書によると話はそれほど単純なものでもないらしい。当のガリレオ自体がカトリックであった、つまり反キリスト教無神論の立場から教会の鼻を明かすというような意思はなかったし、対する教会側も当時としては正当な手続きのもと宗教裁判を行っている。少なくとも、教会がガリレオを狙い撃ちで不当に弾圧し、その弾圧に対してガリレオは科学の優位性を楯に勇敢に闘ったというようなことはなかったらしい。ちなみに本書によると、ガリレオの有名な文句「それでも地球は動いている」は後世の創作だそうです(´・ω・`)

片山杜秀『[シリーズ]企業トップが学ぶリベラルアーツ 「五箇条の誓文」で解く日本史』(NHK出版新書)

「日本の近代(明治-敗戦)とは何であったか」についてはさまざまな見解・研究が発表されているが、本書のようにその原点を五箇条の御誓文に求めたものは珍しいと思われる。いわれてみると、明治維新に始まる日本の近代化は五箇条の御誓文の実現過程であり、その結果生み出された権力構造、つまり「さまざまな権力機構が天皇を中心に緩く結びつき、それらを統率できるものがいない」という権力構造が悲惨な大戦をもたらしたという結論は腑に落ちやすい。ビジネス向けの軽い新書という体だが、そのわりには面白く、新しい考え方も見えて、たいへん勉強になった。

高口康太『現代中国経営者列伝』(星海社新書)

昨今は中国から世界的大企業が生まれつつある。本書はタイトルの通り、いくつかの中華系大企業の創業者の評伝集であり、まずは難しいことは抜きにして、読み物として面白い。紹介される人物がそれぞれ個性的でかつパワフル。彼らが失敗や挫折を経験しつつも、巨万の富を築き上げていくのだから、読んでいておもしろくないわけがない。やはり成功譚というのは読んでいて気持ちがよいのだが、その一方で本書から学ぶことも多い。「巨大な内需を抱えているがゆえに、中国でNo.1になるだけでも、世界有数の規模になりあがれてしまう」「建前上は共産主義のため、官民一体となった経済成長が可能」「不合理をきらい、投資欲が高いなど、ビジネス向きの国民性がある」などが個人的には印象に残った。バブルといえばその通りだが、このグローバル化の時代、一国のバブルが世界を飲み込んでしまう可能性も十分ありうるのである。

伊達聖伸『ライシテから読む現代フランス ――政治と宗教のいま』(岩波新書)

不勉強を告白しておくと、本書を読むまで"ライシテ"ということばすら知りませんでした……。"ライシテ"とは「公共の場に宗教を持ち込むべからず」という、ある種の宗教的政治的中立性のことで、カトリックと結びついた王権が人民を弾圧した過去/建国神話を持つフランスらしい概念ではある。さてフランスで重視されるこのライシテだが、近年イスラム教との関係のなかで揺らぎを見せつつあり、本書はいくつかの事例を取り上げながら、現代フランスにおけるライシテの複雑さを解き明かそうとしている。公教育でのスカーフ禁止など、日本人の感覚からすると腑に落ちない現象が理解できる1冊である。聖俗一致のイスラム教と聖俗分離のライシテの食い合わせが悪いことはいわずもがな、しかしカトリックの影響のもと「完全な分離」が実施できているわけでもないというところに、話の複雑性があると感じられた。