nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

市谷聡啓・新井剛『カイゼン・ジャーニー: たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで』(翔泳社)を読んだ

カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで

カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで

Twitterのタイムラインで@tbpgrさんがプッシュしまくっていたという、身もふたもない動機で買って読んだのですが――超よかった(´・ω・`) わたしが思う本書の長所としてはまずストーリー仕立てであるということ。本書ではアジャイル開発やスクラム開発の方法論を紹介することが主なのですが、この手の本はどうしても「方法論を箇条書き的に紹介する」という形式になりがち。知識として体系的に学ぶのであればそれでも良いのかもしれませんが、その方法論を具体的にどういう場面・文脈で使うべきかという観点が抜けてしまい、実践に移しずらいきらいがあります。対して本書は小説の流れの中でさまざまなメソッドが解説されるため、具体性を伴っていて、かつまねしやすい=気軽に実践しやすい。またストーリ仕立てだと読者は自分のこととして読むため、知識の定着率が高くなるのも小説形式の効果のひとつといえそうです。

次にアジャイルスクラムで使われる「仕事の進め方」に関して理解できたのは個人的にはよかったと思います。アジャイル開発・スクラム開発というと、たとえば自動化やバグ管理システムなど、ソフトウェア開発の手法やツールに注目が集まることが多いのですが、実際にはさまざまな「仕事の進め方」の集合体であり、手法やツールはその「仕事の進め方」を実現するためのものでしかありません。本書は手法やツールではなく、「仕事の進め方」やプラクティスの解説に注力することで、読者にアジャイルスクラムの核を理解させようとしており、実際にその試みは成功しているように思います。またその「解説」は簡潔かつ分かりやすく、少なくとも理解できないということはないはず。

最後に「自分から少しづつ始めていく」「始めるのに遅すぎるということはない」という本書の考え方が個人的には気に入っています。日本人は良くも悪くも生真面目で、何らかの方法論を使うとなると「プロジェクトの構成員全員がその方法論を100%理解して、プロジェクトの最初から最後まで、その方法論を完璧に適用せねばならない」という思考に陥りがち。しかしそんな完璧主義では何も始まらない、始められないのは言うまでもありません。「自分一人でもいいから少しづつ始めていく」「過去に戻ってやり直したい気持ちを抑えて、気が付いたその日その時点から始めていく」。そういうマインドセットに切り替えることができたのは、本書を読んだ最大の学びだと個人的には思っています。

ちょっとほめすぎかしらん(´・ω・`) ほめてばかりだとあやしい(?)ので、しいて指摘事項をあげておくと――本書はチームビルディングに関してかなりの分量を割いており、最終的にはチーム間の連携にまで話を進めていきます。仕事というのはチームで進めていくものであり、とりわけソフトウェア開発はその傾向が強いので、チームビルディングに焦点を当てるのは間違っていないのですが、しかし本書では「メンバーがひざを突き合わせる距離にいるチーム」しか扱われないことが少し気になりました。Web業界ではリモートワークがデファクトスタンダードになっているようですし、お堅いSIerでもオフショア・ニアショアが当たり前のように利用される時代になっています。要はチームメンバがひざを突き合わせないどころか、物理的に離れた距離にいながら開発を進めることも多くなってきており、「そういう現場特有の問題に関する話があってもよかったのでは」と少し思ったのは事実です。

ただ「それは本書のスコープではない」「そこまで話を広げると、全体としてまとまりが悪くなる」といわれると、まったくもってその通りですし、わたしの指摘など些細なものに過ぎず、本書の価値を下げるほどのことではないということは強調しておきたいと思います。

あとは小説という観点から読むと、本書の持つ性質上仕方ないとはいえ、登場人物のあくが強すぎるというか、変人奇人が多すぎる――と思っていたのですが……

やばい((((´・ω・`))))