nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

細川義洋『プロジェクトの失敗はだれのせい?: 紛争解決特別法務室"トッポー"中林麻衣の事件簿 』(技術評論社)

本書のテーマは「受託システム開発が失敗した挙句、顧客との裁判沙汰にまで発展しそうなとき、受託側のSIerはどのようにふるまうべきか」である。よって「トラブルなくシステム開発を進める方法」「デスマーチ状態を脱出するやり方」などは本書のスコープではない。本書は小説仕立て、すなわち顧客との関係がこじれ切ったプロジェクトを法務部員の主人公が救済して回るというものなのだが、その中デスマーチ描写はほとんどなく、またトラブルの原因にしても現実社会ではほとんど考えずらいようなもの、ネタバレを恐れず述べれば「悪意を持った第3者の介入」であり、あくまで「顧客との関係が悪化しきった後」がメインテーマであることがよくわかる。

しかし「ソフトウェア開発においてトラブルをいかにして起こさないか、あるいは起きた場合にはいかにふるまうべきか」については類書あるいは方法論が多数ある中で「トラブルを起こした後」「顧客との裁判もありうる直前」にスポットライトを当てたものは珍しいと思われる。

プログラマならだれでも知っている通り、ソフトウェア開発はそれ自体難しい。そのうえ現実の「業務」はかくも複雑で、それをシステムに落とし込もうというのだから、トラブルは発生して当然なのである。数十億円単位のシステム開発プロジェクトがお釈迦になって、裁判沙汰になることは珍しくないし、おそらく数百万単位・数千万単位のシステム開発であれば、毎日のように裁判になっているのだろう。そのような高リスクなビジネスにかかわるのであれば、未然にトラブル方法にもまして、トラブルになった後のふるまいを知っておくことも悪くない。またその副産物として、受託システム開発にかかわる法律知識、あるいはトラブルになってからわかる、トラブルを起こさない方法も逆算的に知ることができる。要するにお得な1冊である。

最後に小説としてどうかということだが、及第点だと思われる。ややご都合主義な物語運び、サスペンスやミステリというには少し掘り下げが足りない、キャラクタの造詣が典型的というより陳腐――などなど、物語作品として真剣に読むと文句も言いたくなるのだが、本書はあくまでビジネス書や技術書の類。小説形式という選択は「箇条書き的で抽象的で退屈になりがちなテーマを少しでも面白く実践的なものにしたい」という効果を狙ったものであり、その点では成功しているし、そのレベルであれば十分な水準の読み物だったように思う。