nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

来住英俊『キリスト教は役に立つか』(新潮選書)

キリスト教は役に立つか (新潮選書)

キリスト教は役に立つか (新潮選書)

目から鱗の啓蒙書――というと、えらく安っぽくなりますが、しかし事実なのだから仕方がない。

本書は灘高→東大卒の神父様が「キリスト教を信じることと信じることによって得られる幸せとは何か」を語った、啓蒙的な性質を持つ神学書です。本書が面白いのは信仰とその喜びを記述するにあたって、小難しい神学的概念を語らず、あるいは劇的な宗教的体験を持ち出すこともありません。日常の平易な言葉を使いつつ、理性的かつロジカルに「信仰とは何か」「キリストとは何か」そして「キリスト教的幸福とは何か」をつづっていきます。宗教にかかわることだと、どうしてもエキセントリックな信仰体験を描きがち、そして読者もそのようなものを求めがちですが、本書にはそのようなものはなく、他愛もない平凡な日常に軸足を置いていることに好感を抱きました。

もう一点ユニークだった点としては、本書がカトリック司祭によって書かれたということ。この手の啓蒙活動――というより伝道活動はプロテスタント系のほうが熱心だというイメージがあったため、このような一般書がカトリックの担い手により書かれたことが意外に感じられました。

繰り返すように、本書には宗教の宗教性を強調するようなエピソードはあらわれず、日常的な信仰がどのようなものなのかをときにユーモアなどを交えながら、わかりやすく端的に語ります。日々の何気ない生活と、その対極にある宗教心。その両者がどのように結びつくのかが理解できる――とまではいわないものの、そのとっかかりにはなったと感じられる1冊でした。