nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

深井智朗『プロテスタンティズム:宗教改革から現代政治まで』(中公新書)

2017年ベスト級の新書が現れてしまったので紹介したいと思います。

免罪符を乱発するなど、腐敗に腐敗を重ねたカトリック教会に対して怒りを覚えたルターが95箇条の論題をぶち上げ、宗教改革&プロテスタンティズムが始まった――本書はそういう高校世界史の教科書にあるよう見方を解きほぐしていきます。個人的にもっとも驚きだったのは「ルター自身がのちにルター派と称される教派を立ち上げた」わけではないということ。本書によればルターはカトリック教会をReformあるいはRebuildしたかったに過ぎないそうです。そして「権力と結びついたカトリック教会」をお手本に立ち上がったルター派プロテスタント教会がどのようにして政治権力と結びつき、「保守」化していったのか? そのダイナミックな流れが宗教改革発祥の地であるドイツを中心に描かれています。

世俗=宗教権力に反抗したプロテスタンティズム発祥の地であり、世界で最も民主的な憲法であるワイマール憲法を生み出したドイツがなぜナチスドイツという化け物を許したのか? 戦後の政治学や社会学最大の疑問に対して、本書はプロテスタンティズム、それも政治権力やナショナリズムと結びつき保守化したプロテスタンティズムの観点からひとつの解答を提示しています。答えは本書を読んで確認してほしいのですが、すくなくともわたしにとっては非常に新鮮な観点でした。また移民排斥に向かいつつあるドイツについても、同じくプロテスタントの視点を提示しており、500年前の宗教改革が現代のグローバリゼーションにもつながっていることを教えてくれました。