- 作者: ロバート・クリンジリー,夏井幸子
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2015/03/11
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る
「コンピュータといえばIBM。IBMといえばコンピュータ」。そんな一時代を築き上げたIBMですが、いまや落日のもとにあることはよく知られています。なぜこんなことになってしまったのか? 本書はその理由について、さまざまな角度から検証しています。記述はやや雑多、口調はやや攻撃的ですが、非常に興味深い内容ではあったので、気になった点を2つブログに残しておきます。
経営の指標に株価を用いたこと
目標設定を行う上で、数値化しやすい指標を用いることは悪いことではありません。そこでIBMは株価という一般的でごくわかりやすい指標を用いたのですが、これが大失敗。株価を気にするがあまり、視野狭窄を起こしてしまったのです。たとえば低金利で借り入れた資金を技術への投資ではなく、自社株購入に使ってしまったり、帳面の上で財務状況をよくするためにリストラを行った結果、サービスの質の低下を招いたり……。株価の向上を経営の第一目標に掲げたとして、IBMは多くの道を誤ってしまったのでした。
とくに本書では「リストラ」に批判的です。確かに正社員を解雇して契約社員やオフショアに切り替えたり、福利厚生を縮減したりすると、数字上の財務体質は改善し、株価は上がるでしょう。短期的にはそれでいいかもしれませんが、提供サービスの質が下がったり、社員のモチベーションが下がったりと、長期的にみると大きなデメリットも当然存在します。IBMは自社の株価に目を奪われるがあまり、度重なるリストラを実施した結果、足元が崩れつつあることに気が付かず、現在の惨状へと陥ってしまったのです。
営業出身者が経営の主導権を握ったこと
テクノロジで名をはせたIBMですが、意外なことに営業出身者が経営を主導してきました。営業は営業で必要な仕事ですし、ある意味でテクニカルな職種ではあるのですが、しかし営業ならではの弱さもあります。本書は営業が経営を行うことのデメリットをいくつも紹介していますが、個人的にかなり意外だったのは「コモディティ化に弱い」ということ。
技術というものはかならずコモディティ化します。市場が成熟し、先進的な技術が当たり前になったとき、舞台は価格勝負へと移っていきます。こうなったとき、IBMは先進テクノロジ企業として、安く高品質な商品を市場に供給すればいいにもかかわらず、実際は市場から手を引いてしまう。要するに「営業」的なマインドで経営をしていると、大きく儲けるところに力を入れすぎ、小さな商いをないがしろにしてしまうのです。
いわれてみると、比較的コモディティ化したジャンル(たとえばサーバやクラウドやモバイル)ではIBMのビジネスはお世辞にもうまくいっていないような気がします。サーバ事業に至ってはレノボに売却し、完全撤退を決めてしまいましたし、意外にこらえ性がない企業なのかもしれませんね。では先進的なジャンルで優位性があるかというと……やはり疑問符が付きます。Watsonぐらいなものですかね? しかしAIというのは世界の名だたる企業が力を入れている分野ですし、すぐにコモディティ化して、先行者利益が失われそうな気もします。
- 本書のタイトルの元ネタはガースナー『巨象も踊る』。ワトソン親子亡き後、がたがたになったIBMを立て直したCEOの自伝ですね。
- 調べたところ日本IBMは3年連続増収増益ということで、好調のようです。IBM全体で見ると不調にもかかわらず、日本だけ調子がいいというのは不思議な感じがしますね。なんでだろう?
- 普段は小説しか読まないわたしがなぜ特定の企業に関するビジネス書を読んだのかについては――お察しください(´・ω・`) ヒント: わたしは今年の4月に大学を卒業して、大手の外資系SIerにSEとして就職しました。
- 作者: ルイス・V・ガースナー,山岡洋一,高遠裕子
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2002/12/02
- メディア: 単行本
- 購入: 22人 クリック: 313回
- この商品を含むブログ (94件) を見る