nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

ケン・フォレット『針の眼』読了。

針の眼 (新潮文庫)

針の眼 (新潮文庫)

 本題に入る前の蛇足。今回わたしが読んだのは新潮文庫版ですが、絶版。現在は創元推理文庫から出ています。また新潮文庫版のあとがき(戸田裕之/p.549)によると、新潮文庫以前はハヤカワ文庫に本作品が収録されていたとのこと。確かにAmazonをみるとありますね。しかし絶版。

 ここまでをまとめると本作品はハヤカワ文庫/新潮文庫/創元推理文庫の順番に収録されており、現状手に入るのは最後の創元推理文庫版になるということです。邦訳でこれだけ版元が変わるのも珍しい。しかし逆に考えると本作がそれだけ読み継がれてきたということであり、本作の名作性傑作性を証明しているということになります。

針の眼 (創元推理文庫)

針の眼 (創元推理文庫)

針の眼 (ハヤカワ文庫 NV 319)

針の眼 (ハヤカワ文庫 NV 319)

 本作の舞台は第2次世界大戦期のヨーロッパ。ドイツのスパイ<針>が連合国の重大機密を取得、それを本国に報告すべく英国を脱出しようとする一方、英国の諜報当局も<針>の活動を把握しており、彼の帰国を阻止しようとそれをしゃにむに追いかける。さて<針>は無事英国を脱出できたのでしょうか――というのが本作のあらすじ。これだけでわくわくしてきますね。実際に読んでみると、練り上げられたプロットが目まぐるしい場面転換によって語られており、 これぞスパイ小説/冒険小説といったおもむきを醸し出していました。

 また本作の美点は追う側と追われる側の対比にあると感じました。まず追われる側の<針>はどちらかといえば動物的です。一匹狼で猜疑心が強く、殺人もためらわない。逃げ回る際は確かに論理的に考えは巡らせるものの、最後は自らのスパイとしての勘を頼りに進む道を決めていきます。対して追う側の諜報局は極めて理性的。なぜ<針>がこのような行動をとるのかということを常に考えながら、じりじりと<針>を追いつめていきます。

 この対比がとりわけ生きるのが最終章でしょう。<針>は優秀なスパイですが、その優秀さの源泉である動物性が彼を物語の終焉においてある行動に駆り立てます。それが理性的な諜報局とどう衝突するのか――最後の1ページまで目をそむけることができない。そんな作品でした。