nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

木々高太郎ほか『日本推理作家協会賞作品全集2 短編集1』読了。

日本推理作家協会賞受賞作全集 (2) (双葉文庫)

日本推理作家協会賞受賞作全集 (2) (双葉文庫)

 本作は日本推理作家協会賞受賞作(より正確には日本探偵作家クラブ賞受賞作)のうち、初期短編を集めたものになります。収録作は以下の通り。

  1. 木々高太郎新月』(第1回 短編賞[1948])
  2. 香山滋『海鰻荘奇談』(第1回 新人賞[1948])
  3. 山田風太郎『眼中の悪魔』(第2回 短編賞[1949])
  4. 山田風太郎『虚像淫楽』(第2回 短編賞[1949])
  5. 大坪砂夫『私刑(リンチ)』(第3回 短編賞[1950])
  6. 水谷準『ある決闘』(第5回 [1951])

 さて収録作の傾向ですが、おおきく2つに分かれます。まずは「文学派」。推理小説の枠組みを利用して純文学的なテーマを語る作品群で、1/5/6がこれに該当します。まあこれに関しては木々高太郎/大坪砂夫/水谷準という名前からもわかりますが。そして残る2/3/4は「怪奇派」に分類されます。いわゆるエログロというやつですね。3/4の山田風太郎はともかく、香山滋のデビュー作(2)が「怪奇派」的な作品であることは知りませんでした。

 どの作品も平均以上のクオリティでしたが、個人的に気に入ったのは1/3/4。まず1について。1950-60年代にかけて日本の推理小説界では、いわゆる本格推理小説を指向する一派と、高い文学性や芸術性を指向する一派に分かれ、激しい対立を繰り返していました。その代表的な事件が抜打座談会事件ですが、その後前者の一派が優勢になったということもあって、後者の作品はあまり読まれないという事態が現在でも続いています。大坪砂夫などは後者とはいえまだ読まれる方ですが……個人的には苦手(収録作の5もだめでした)。そのため坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとばかりに、後者に属する作家の作品から逃げていました。しかし1は非常に面白く読めました。確かに高い芸術性を目指してはいるものの、根っこの部分には探偵小説の基礎がしっかりとあり、そのためすんなりと受け入れることができたのかもしれません。ひるがえって考えると、大坪砂夫は探偵小説の部分をないがしろにしているということになりますが……。

 次に3/4について。怪奇的と称される探偵小説を書く作家はたくさんいますが、その怪奇性をいかに演出するかは作家ひとりひとりによって違います。たとえば収録作の2では奇妙な生物やそれにかかわるマッドサイエンティストが登場し、何とも言えない不気味さに満ちています。またこの手の創始者である江戸川乱歩であれば芸術至上主義な態度、ひるがえって人命すらも芸術の前にひれ伏す様子を生々しく書くことが、乱歩特有の怪奇性になっています。『パノラマ島奇譚』などはその究極形ですね。

江戸川乱歩全集 第2巻 パノラマ島綺譚 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第2巻 パノラマ島綺譚 (光文社文庫)

 では3/4の作者である山田風太郎の怪奇性とは何か――それは「都会」です。山田風太郎というと『柳生忍法帖』など伝奇的な歴史小説が有名ですが、こと推理小説分野の作品となると非常に都会的になります。しかし一般にいわれるような「都会的な作風」ではなく、本来最先端な「都会」の裏にあるどろどろとした何かを描くタイプです。いわば「都会的なエログロ」であり、わたしはそうしたテーマに関心を持っている――というか非常に惹かれるのです。とりたてて都会出身でもなく、都会に住んだこともないのですが……。

柳生忍法帖(下) 山田風太郎忍法帖(10) (講談社文庫)

柳生忍法帖(下) 山田風太郎忍法帖(10) (講談社文庫)

柳生忍法帖(上) 山田風太郎忍法帖(9) (講談社文庫)

柳生忍法帖(上) 山田風太郎忍法帖(9) (講談社文庫)