人形はなぜ殺される 新装版 高木彬光コレクション (光文社文庫)
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高木彬光は戦後本格推理小説界の巨匠であり、多くの名作を残しています。『刺青殺人事件』『能面殺人事件』『わが一高時代の犯罪』『成吉思汗の秘密』『破壊裁判』などなど。ぱっと思いついたものを並べただけでも傑作ぞろいであることがよくわかりますが、本作『人形はなぜ殺される』は高木彬光随一の傑作と名高い作品です。
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本格推理小説を読む楽しみのひとつに「整理整頓」があると考えています。たとえば明らかな不可能犯罪がトリックの解明によって白日にさらけ出される。あるいは絶対に崩れないと思われていたアリバイがわずかなひらめきによって瓦解する――こうした渾然とした状況が理路整然と説明される、パズル的な楽しみが本格推理小説の根本にあります。
本作において、この「渾然」はオカルトによって演出されています。ひとくせもふたくせもありそうな人びと、彼らが愛好してやまない不気味な手品、あるいはところどころに姿を現す人形。こうした要素に加え、戦後すぐという舞台設定、すなわち戦中の締め付けから解放され、人びとが享楽的に生きる時代背景が「渾然」におどろおどろしさを付け加えています。
しかし本作は本格推理小説。こうした非科学的なオカルトは探偵の英知によって科学的に解明されます。本作がすばらしいのはこの「解明」にいたるまでに積み上げられる論理の緻密さであり、単純にもかかわらず読んでいる最中は気付かない「ひらめき」によって「解明」がもたらされる驚きであり、そして「科学」と「非科学」の落差にあると思いました。多くの推理小説はこうした要素のうちひとつ秀でているかいないか程度であり、いくつものハードルを軽々超えてしまっているところに本作の非凡さがあらわれています。
ここまで本作の推理小説としての長所を称揚してきました。が、わたし個人の意見として高木彬光のすごいところは小説としてのクオリティの高さにあると考えています。つまり高木作品にはできのよい物語が存在し、それが推理小説としての面白さと両立させているところに高木彬光の巨匠たるゆえんです。
そして本作も例にもれず、推理小説を抜きにしても楽しめる話だったように思いました。読者があきてしまわないよう物語を巧みに展開させるのはもちろん、楽しませるところは楽しませる、怯えさせるところは怯えさせるというような物語の緩急も適切に加えられており、最後までノンストップで読ませる筆力でした。
ちなみに個人的な高木彬光ベストは『白昼の死角』。これも高木作品を語るうえでよく挙がる作品ですね。『白昼の死角』は本格推理小説ではなく、むしろ犯罪小説に分類される類の作品ですが、非常に面白い。つまり推理小説という機構がなくとも、高木彬光は読ませる作品が書けるのであり、高木彬光が良質な物語の送り手であることを証明しているのではないでしょうか。
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