nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

小松左京『復活の日』読了。

復活の日 (ハルキ文庫)

復活の日 (ハルキ文庫)

 小松左京の第2長編。わたしが読んだのは角川文庫版ですが、現在は手に入らない模様。書店で手に入るのはハルキ文庫版のようなので、アマゾンのリンクはそちらを優先しました――と、ここまで書いてぼんやり調べていたところ、角川文庫版は電子書籍で現在入手可能なようです。便利な時代になりました。

復活の日 (角川文庫)

復活の日 (角川文庫)

 さて本作を読んでいて舌を巻くのは「論理の骨太さ」。とある猛毒なウィルスが偶然ばらまかれるという一点からじょじょに世界がむしばまれていくのですが、このむしばまれていくさまが非常にリアルでかつロジカル。人間社会は単一のロジックで運営されているわけはなく、複雑な論理ともいえない何かが複雑に絡み合ってできています。したがって社会をリアルに描くには、その絡まったひもを絡まったままに想像力を働かせる必要があります。

 社会のあらゆる事象に目くばせしながら、過不足なくそれらにアプローチするとでもいうべきでしょうか。これはどう考えてもとんでもないことです。たとえば社会学者とよばれる人々がいますが、彼らのほとんどは社会の一部を切り出して、研究しているにすぎません。もちろんあるテーマを狭く浅く研究することは大事ですが、逆にいうと、そのようなアプローチ方法はしかるべき訓練次第でだれでもできるようになるということです。しかし本作のように、社会を広くかつ「深く」切り出し、それをユニークなSF小説に仕立て上げる能力は並大抵のものではありません。おそらく世界でも小松左京ひとりにのみ許されたものでしょう。

 ここまで論理性ばかりをほめていますが、本作が素晴らしいのは「物語としての面白さ」も十分にそなえているということ。極端にロジックばかりを押し出したSF小説というのも悪くはありませんが、本作には豊かな物語があり、仮にロジックが楽しめない人でもそちらは鑑賞に十分値するはずです。陳腐ないいまわしをすれば「次のページが気になる」「ふたたび読み直してみたくなる」。そういう上質な物語がそこにはあります。

 もっともこの物語を根底から支えるのは、何度も言うように「論理性」です。物語は論理が転がる方向にしか転がりません。したがって物語は発展上の制約を持つはずですが、にもかかわらず凡百の作品より起承転結のめりはりが利いて、非常に面白い――ううむ、天才ですな。