nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

ボーヴォワール『他人の血』読了。

他人の血 (新潮文庫 ホ 4-4)

他人の血 (新潮文庫 ホ 4-4)

 フェミニストとして歴史に名を残している作者ですが、サルトルの妻(パートナ?)であったことからも明らかなとおり、実存主義の思想家であり、小説家でもありました。本作は作家ボーヴォワールの第2作目にあたります。ちなみに本作は1945年で、代表作『第二の性』は1949年の発表ですから、本作のほうが実は先に世に出ているわけです。『第二の性』が作者の処女作だと(勝手に)思っていたので、これは結構な驚きでした。

決定版 第二の性〈1〉事実と神話 (新潮文庫)

決定版 第二の性〈1〉事実と神話 (新潮文庫)

 さてフェミニストの作品にこんな感想をつけるのもあれですが、非常にハードボイルドを感じました。理由は「文体」。原文がそうなのか、あるいは翻訳で調節しているのかはわかりませんが、冷酷で簡潔な文体です。また映画的手法、すなわちシーンや視点が目まぐるしく移り変わる手法を用いているので、登場人物の心情や内面に深く立ち入らないというある種の客観性が図らずして生まれています。ここもハードボイルド性を感じるポイントです。ただしこの「映画的手法」に関してはやや混乱しているところもありますし、作者が本当に突き詰めたいはずの思弁性をやや損なっている気もしなくはないということは述べておきます。

 また内容としては実存主義哲学を扱わんとしてる――と思うのですが、正直なところわたしの手にはおえないところので、詳しいことは避けておきます。おおざっぱな印象としては「自分の存在と他人のそれの関係を追及している」というところ。いいたいことはよくわかるし、それが文学のテーマになることも理解できる。比較的普遍性のある主題でもあるので、いわゆる純文学としての強度(?)は担保されているのではないかと思います。

 とりあえず読んで損をする、時間の無駄になるような作品ではないです。純文学や哲学としての評価は下しかねますが、通俗小説としてみた場合にはなかなか読めるという印象――なんだか歯切れの悪い結論ですが、わたしの能力ではこれが精いっぱいです。すみませんでした。