nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

フランソワ・ジョリ『鮮血の音符』読了。

鮮血の音符 (角川文庫)

鮮血の音符 (角川文庫)

 本作は作者の第3作品にあたり、権威あるフランス推理小説大賞とローカル賞の受賞作――らしい。

 「らしい」というのは、情報が少なすぎるのである。本作が作者の初邦訳のようだが、その後継続的に日本に紹介された形跡はさっぱりない。ネットの海をさまよってみても、作者に関する日本語の情報は見当たらなかった。だいたいにして本作を書評したブログすら見つからないのである。はっきりいえば異常。どんなマイナーな作品でも通常はブログのひとつやふたつヒットする。

 フランス語はアルファベットすらわからないレベルなので、そちらを調べるわけにも行かず、行き詰ってしまった。また本作が獲得したとされる「フランス推理小説大賞」「ローカル賞」だが、これらについても例のごとく有益な情報は見つからなかった。そもそも日本においてフランスの推理小説が体系的に紹介されたということをあまり聞かない。あってもせいぜいルブランやルルー程度。ほとんどは映画などの原作が散発的に翻訳される程度のものだと思う。

奇岩城 (新潮文庫―ルパン傑作集)

奇岩城 (新潮文庫―ルパン傑作集)

 ――と、情報のないことをくどくど言い訳していたら、ついつい「だである調」になっていますね。このブログは「ですます調」で書くようこころがけているので、ここからはいつもどおりに進めます。

 さて本作を取り巻く文脈をまったく知らないで読んだわけですが、それでも比較的楽しめる作品でした。とりわけ印象に残ったのは「文体」。原文がそうなのか、あるいは翻訳でそれらしく調整しているのかはわかりませんが、非常にハードボイルドな文体です。客観的で、かつ簡潔。またどこか冷笑的なところもあり、文体上の特徴となっています。

 また物語についても面白く読めましたが……少々無理はあります。全体的にスリリングで、かつ結構読ませる構造に作られているので、読んでいる最中はさほど気にはなりません。が、読み終えて冷静になると、首をひねってしまう部分もちらほら。とくに「おち」。いろいろ語られるのですが、正直論理破綻しているし、そもそもこのクライマックスはさすがに陳腐すぎる。まあ「ハードボイルドは文章が命」といえばその通りなので、物語云々に食って掛かるのは野暮かもしれませんね。

 総評としては「読んで損はない作品」というところでしょうか。高いお金を出してまで読む価値はないとおもいますが、古本屋で安く見つけたら読んでみてもよいと思います。