nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

夢枕獏『神々の山嶺』読了。

神々の山嶺〈上〉 (集英社文庫)

神々の山嶺〈上〉 (集英社文庫)

神々の山嶺〈下〉 (集英社文庫)

神々の山嶺〈下〉 (集英社文庫)

 上巻504ページ、下巻564ページ。原稿用紙換算ではなんと2000枚越えという超大作です。

 ジャンルとしては山岳小説になるのでしょうか。一般的には冒険小説のサブジャンルとされており、わたしがあまり詳しくない分野です。日本の有名作家だと新田次郎ぐらいしかわからない……。しかもその新田次郎作品も読んだことがないという体たらく。『八甲田山死の彷徨』はいつか読みたいと思います。

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

 さてわたしが「冒険小説音痴」であることを前提に聞いてほしいのですが――面白かったです!

 本作に描かれているのは「山に対して愚直すぎる男たち」の物語です。文庫解説(北上次郎)のことばを借りれば

つまり夢枕獏が書いているのは、それが格闘であっても釣りであっても、自分がいちばんでありたいと願う男の物語なのだ。その強い希求を、まっすぐに描くからこそ、いつも物語がダイナミックなのである。この『神々の山嶺』でもその事情は変わらない。羽生丈二という天才的クライマーの波瀾に富んだ半生を描くこの長編は、山に登る者としていちばんでありたいと思う彼の強い夢が物語の芯をまっすぐに貫いている。ただ上に進むこと、登ること。すべてを捨てて、とにかく上へ上へ向かう羽生丈二の姿にうち震えるのは、その強い希求がつい弱音を吐こうとする脆弱な我々の心に直截にひびいていくからだ。我々が叱咤激励されているような気がするからだ。(pp.561-562)

これはまさしくその通り。わたしは生来競争心が薄い、というかほとんどない性質ですが、それでも動物である以上、あるいは人間である以上、闘争本能は持ち合わせています。単にわたしはそれが他人にむかないだけ。こだわりや執着心といえるようなものはあって、そこでは誰かに負けたとしても自分に負けたくない。

 いわば「自分志向の闘争心」。そしてそれに突き動かされる男たちの苦しみや人生をかけたロマン。それらがエベレストという世界一高い山を中心に力強く描かれている――わたしはそう読み、自分と重ね合わせて、強い感動を覚えました。

 もちろんこうしたテーマや主題だけが本作のすばらしいところではありません。とくにこの超大作をあきずにすらすら読ませる物語構成はさすがの腕前。内容は「ど」がつくほどストレートですが、それを書きだす物語はずいぶん練られていて、読み応えという点では大満足でした。

 実のところ夢枕獏の作品はあまり読んだことがありません。理由は簡単。1シリーズの巻数が多いから。個人的な癖として「シリーズものはとりあえず全部読んでおきたい」というのがあり、なかなか手が伸びないでいます。ライトノベルも同じ理由でほぼ読んでいません。読書の幅が狭まるので、この癖は直すべきでしょうが……これがなかなか難しい。これが「自分志向の闘争心」というやつですか(ちがいます)。