- 作者: スティーヴ・ハミルトン,越前敏弥
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/07/10
- メディア: 文庫
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現代アメリカのハードボイルド文学を代表する作家の処女長編。アメリカ探偵作家クラブ賞とアメリカ私立探偵作家クラブ賞というアメリカ推理小説界の2大大賞をとってしまった、すごい作品です。
ちなみにわたしがこの作者の名前を知ったのは、『解錠師』(2011)という作品においてでした。ハードボイルドであり、犯罪小説であり、児童文学であり、教養小説であり――そのすべてが互いをそこなうことなく、巧みに混ざり合い、高い完成度を誇る。『解錠師』はそういう作品です。超おすすめ!
- 作者: スティーヴ・ハミルトン,越前敏弥
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/12/09
- メディア: 文庫
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個人的には『解錠師』という作品は生涯ベスト級だと思っています。いや、ハードボイルド文学のランキングでもベスト級かな。少なくともベスト100には入るでしょう。じゃなきゃ、わたしが暴れる。
閑話休題。
本作の面白いところは大きく分けて2つがあげられます。
まず主人公のアレックス・マクナイトが「でもしか探偵」である点。ハードボイルド・ミステリとか私立探偵小説とかいわれるようなジャンルにおいては、主人公の私立探偵は通常「私立探偵であること」に強い誇りを抱いています。あるいは一家言あるというべきでしょうか。
しかし本作は違います。主人公の本業はきこり。私立探偵には成り行きでなるだけで、そこに愛やプライドは全くありません。「副業でやってます」「やめる理由もないのでやってます」感に満ち満ちています。
いうなれば「私立探偵業に興味がない私立探偵」。これは非常に珍しいといえるでしょう。
次に物語中主人公に強くスポットライトが当たる点も本作の特徴です。
「私立探偵を主人公とするようなハードボイルド作品」では、一般的に主人公はカメラに過ぎないことが大半です。発生した事件やそれを取り巻く人間模様をつぶさに観察し、読者に伝える。時には事件に介入するものの、基本は「観察者」「傍観者」の立場から離れないのが私立探偵です。
つまり一般的な私立探偵ものでは外的な出来事が主であるのに対し、本作ではアレックス・マクナイトの個人的な事情が大きく取りざたされます。もちろんミステリですから、それらしい事件は発生します。しかしその事件は主人公の忌まわしい過去とつながりを持ち、かつ「主人公がそれとどのように向き合うのか」について、内的な心の動きも含めて丁寧に描かれています。
極端なことをいえば、本作は教養小説の趣が強いというわけです。ハードボイルド・ミステリは人間の内面を書くのが苦手――というより、内面を書くことをできるかぎり避けるジャンルなので、本作は本来相対するものを両立させている、たぐいまれな小説といえるのではないでしょうか。
先にあげた『解錠師』も「少年の成長にスポットを当てる」という点で、教養小説的です。もしかすると、作者スティーブ・ハミルトンは「教養小説的であること」にこだわりがある、あるいはそれが得意なのかもしれませんね、