nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

トマス・ハリス『羊たちの沈黙』読了。

羊たちの沈黙 (新潮文庫)

羊たちの沈黙 (新潮文庫)

 サイコホラーの傑作小説。映画版も有名ですね(見たことないけど)。

 ちなみに読んだのは菊池光の旧訳版。評判が良いのと、菊池光が好きなのでこちらを選択しましたが……残念ながら絶版。現状手に入るのは高見浩訳みたいですね。

羊たちの沈黙〈上〉 (新潮文庫)

羊たちの沈黙〈上〉 (新潮文庫)

羊たちの沈黙〈下〉 (新潮文庫)

羊たちの沈黙〈下〉 (新潮文庫)

 まあ高見浩も優秀な翻訳家なので新訳を読んでも間違いないはず。ただ菊池光の「ごつごつ」した文体が個人的に好みなので、そちらを選択したというだけです。ロバート・B・パーカーの翻訳とか素晴らしいですよね!

初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)

初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)

 閑話休題。さて本作ですが――非常に面白かったです。部分部分の描写が客観的かつ鮮明。しかもそれをつなぐ物語の緩急がうまく、サイコホラーの一番怖いところがじわじわ読者に迫ってきます。陳腐ないい方をすれば「ぞくぞく」する小説でした。

 また本作は「ホラー」としてはもちろん推理小説、すなわち論理の端正さを楽しむ小説としても優秀です。

本書は、いわゆる<恐怖ホラー小説>の分類に属するのかもしれませんが、数多いホラー・スリラーが非現実的な要素を含んでいるのに対して、あくまでリアリスティックです。読んでいるうちに、そのきわめて現実的な事件、あるいは作中人物の行動から、現実の出来事の進展を追っていくような気持ちになると同時に、自分自身にもそのような深層心理が潜んでいるのではないか、という気がして恐怖感がたかまります。その点を考えると、この作品は一種のサイコロジカル・スリラーと見ることもできます。(p.508)

 と訳者解説が述べるとおり、たとえば主人公スターリングがレクター博士の助言を借りて犯人を追いつめていくさまなど、物語全体はきわめてロジカルに進行していきます。にもかかわらず――というよりはむしろ"だからこそ"非常に恐ろしい作品に出来上がっているのではないでしょうか。

 さてトマス・ハリスは非常に寡作な作家として知られています。30年の作家生活において発表作品はなんと5作!  

ブラックサンデー (新潮文庫)

ブラックサンデー (新潮文庫)

レッド・ドラゴン 決定版〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

レッド・ドラゴン 決定版〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ハンニバル〈上〉 (新潮文庫)

ハンニバル〈上〉 (新潮文庫)

ハンニバル〈下〉 (新潮文庫)

ハンニバル〈下〉 (新潮文庫)

ハンニバル・ライジング 上巻 (新潮文庫)

ハンニバル・ライジング 上巻 (新潮文庫)

ハンニバル・ライジング 下巻 (新潮文庫)

ハンニバル・ライジング 下巻 (新潮文庫)

レッド・ドラゴン 決定版〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

レッド・ドラゴン 決定版〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

 以上に『羊たちの沈黙』を加えた5作がトマス・ハリスの全作品となります。なお翻訳に関しては絶版は『ブラックサンデー』だけ。他はすべて普通の本屋で手に入るようです。それだけ人気があるというべきか、あるいは極端な寡作でファンを泣かせる罪作りな作家というべきか……