nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

大藪春彦『復讐は俺の血で―初期短編集1』読了。

 大藪春彦が1958-61年に発表した短編を集めたもの。収録作品は以下の通り。

  • 「白い夏」
  • 「雨の露地で」
  • 「テロリストの歌」
  • 「怒りの航跡」
  • 「屍を超えて」
  • 黒革の手帖
  • 「夜に潜む」
  • 「破局」
  • 「復讐は俺の血で」

 列挙ついでに上記短編が手に入るかどうか調べようと思ったのですが(本作は絶版)、わかりませんでした……。「ならせめて初出だけでも」と奥付を探してみたものの、全く記述なし。解説(秋山狂介)によると

大藪春彦の作品の初出誌作品リストを調べようとして国会図書館まで行ったことがあった。単行本で七割ぐらいしかない。あとの三割は行方不明か再販本で初版がいつ出たかも奥付に書いていなかった。大藪作品の掲載誌をあたろうと思っても、ある雑誌は一週間たたないと見せてくれないのだ。一週間たって見ると、その雑誌は行方不明で調査中とか。出版社に問い合わせてみると、これがまた雑誌を保存していなかった。作品リストはそれぞれ三か月ぐらいかけて大体は調べたが、それでも二、三抜けているのではないかと今だに不安で気持ちが悪い。「野獣死すべし」が発表されたのが1958年。たったの22年前の話なのに、大藪春彦の百パーセント完璧な長編・短編。エッセイ・対談などの初出誌一覧は不可能に近いことを発見して愕然とした。(p.294)

とのこと。昔のいい加減さを象徴していますね……

   閑話休題。  

 大藪春彦の作品というと「妙にマッチョな主人公がためらいなく人を殺したり女をセックスで籠絡したりする」というイメージがあると思います。あるいは「銃や自動車など無機物に対して極端なまでの関心を寄せる」とか。

 実のところそのようなイメージは間違っていません。というよりそのような作品だけをデビュー以来書き続けたところに大藪春彦のすごさはあります。ノワールもの、スパイもの、レースもの――何を題材にしても金太郎あめのように大藪春彦があらわれてくるのです。

 とはいえ作風に変遷はあり、初期作品には途方もない「暗さ」に満ちています。売れっ子作家として頭角を現した中期以降になると、物語作家としての才能が前面に押し出されるとともに、「男らしさ」や「強靭な肉体」あるいは「猛々しい生命力」などが中心的なテーマとなりますが、初期作品の場合は真逆。「死」「ニヒリズム」「破滅願望」――こうした「暗さ」が初期作品最大の魅力になっています。

 デビュー作の『野獣死すべし』が1958年の発表ですから、1958-61年に発表した短編をまとめた本作はちょうど大藪春彦の最初期。つまり「暗さ」におおわれた作品が多数収められているのです。個人的には大藪春彦の「暗さ」がかなり好きなので、むしゃぶりつくように読んでしまいました。

野獣死すべし (光文社文庫―伊達邦彦全集)

野獣死すべし (光文社文庫―伊達邦彦全集)

 『野獣死すべし』のあの「暗さ」――あれを追体験してみたい方にはおすすめの短編集です。あるいはある種の「大藪春彦像」にとらわれている方も是非。どこか鬱屈した青春小説ばかりで驚くこと間違いなし!

 ――とここまで書いたあと、大藪春彦を特集したテレビ番組を偶然YOUTUBEで見つけたので、以下に張り付けておきます。

https://www.youtube.com/watch?v=vyNL9eZ8RHs https://www.youtube.com/watch?v=nxvjsjfbdME https://www.youtube.com/watch?v=IiLfL4pHOlo https://www.youtube.com/watch?v=hUjGtkMuX3I

 ふむふむ。このテレビ番組どおりが正しいとすれば初期小説が屈折するのもやむなしですな。