nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

鮎川哲也『朱の絶筆』読了。

朱の絶筆 (講談社文庫)

朱の絶筆 (講談社文庫)

 鮎川哲也の有名長編ですね。わたしが読んだのは講談社文庫版です。ただし絶版。調べてみると光文社からも出ているようです――とこちらも絶版なのね……

朱の絶筆  星影龍三シリーズ (光文社文庫)

朱の絶筆 星影龍三シリーズ (光文社文庫)

 キンドルを持っている場合はそちらでどうぞ。光文社と講談社ともに電子書籍は提供しているようです。わたしは持っていないので中古で掘り当てましたが。

朱の絶筆?星影龍三シリーズ? (光文社文庫)

朱の絶筆?星影龍三シリーズ? (光文社文庫)

朱の絶筆 (講談社文庫)

朱の絶筆 (講談社文庫)

 ミステリに限らず娯楽小説はすぐ絶版になるので困りますね。読みたい古典や傑作があっても本屋においていないのは日常茶飯事。アマゾンでも無理となれば、中古を注意深くあさるほかありません。キンドルを買えば済む話ではあるのですが……なんというか電子書籍に対する心理的抵抗があって、なかなか手が伸びないでいます。お金もないしね。一応「紙の本」に対する愛着もあるので、当分は新品なり中古なりで読んでいこうと思います。

 さて本題。

 本作品の魅力は――というより鮎川作品の魅力は「わずかなほころびから緻密な論理で犯人を明らかにする」という点にあると思います。とくにアリバイ崩しものなどはそうで、読者が見逃しそうなひび割れからロジカルに犯罪の全容を崩していく。読者はその崩れるさまにカタルシスを得るわけです。

 本作品はアリバイ崩しではありませんが、わたしが思う鮎川作品の魅力が存分に表れていると思います。前半分でもつれにもつれた物語がいくつもの殺人を織りなし、そしてそれを名探偵がロジカルに解き明かす。書いているだけでわくわくしますね。よくできた物語構成です。決して派手さはありませんが、それだけに「推理」を際立たせているといえるでしょう。

 あとは文学性にたけた作品だとも感じました。鮎川作品はその緻密なロジックやフェアプレイ精神などが取り上げられがちですが、文学性という面からも語られるべきだというのがわたしの持論だったりします。表現しづらいですね――よい意味で無機質でざらざらとした文学性というべきかしら。あれがたまらなく好きなのです。ハードボイルドファンとしては、そこにハードボイルドを感じないではいられません。狙って書いたのか、本人の特性なのか。そのあたりはわかりませんが、鮎川哲也が凡百の推理作家と違うのはそこにあると思います。

 ちなみにアリバイ崩しものとしては『準急ながら』が個人的には好きです。以前読んだのは確か光文社文庫だったような――とこれも絶版ですか、残念。

準急ながら 鬼貫警部事件簿―鮎川哲也コレクション (光文社文庫)

準急ながら 鬼貫警部事件簿―鮎川哲也コレクション (光文社文庫)

 電子書籍では手に入るようなので興味がある方は是非。中編なのですぐ読めるのもよいですね。

準急ながら 鬼貫警部事件簿 (光文社文庫)

準急ながら 鬼貫警部事件簿 (光文社文庫)