nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

都築道夫『退職刑事』読了。

退職刑事 (1) (創元推理文庫)

退職刑事 (1) (創元推理文庫)

 安楽椅子探偵ものの名作ですね。今回読んだのはシリーズのうち第1作にあたり、以下の7編が収録されています。

  • 『写真うつりのよい女』
  • 『妻妾同居』
  • 『狂い小町』
  • 『ジャケット背広スーツ』
  • 『昨日の敵』
  • 『理想的犯人像』
  • 『壜づめの密室』

退職刑事〈2〉 (創元推理文庫)

退職刑事〈2〉 (創元推理文庫)

 末っ子の現役刑事が難事件の概要を語り、父親の退職刑事がそれを解き明かす――身も蓋もないいいかたをすれば、7編ともただそれだけです。途中にアクションシーンがあるとか、父子の葛藤が描かれるとか、そういうことは全くありません。男ふたりが事件について語るだけの非常に地味な話が7編収められています。

 また短編内で扱われる事件も非常に地味。以前記事に書いた泡坂妻夫『乱れからくり』のような、派手なトリックとは縁遠いところにあります。息子が語る地味な事件を、父がこれまた地に足がついた推理で解き明かす。これが7編続くわけです。

 しかし全く退屈ではないのがこの作品のすごいところ。推理小説の面白さのひとつに「論理性」があります。「AならばB」をこつこつと積み上げ、アクロバテックなことは絶対にしない。その極致が本作の魅力といえるでしょう。

 安楽椅子探偵ではないですが、クイーン『オランダ靴の謎』などと同じカテゴリに入るのではないでしょうか。そしてクイーンでは同作が好きなわたしとしては、『退職刑事』は非常に楽しめる作品でした。