nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

泡坂妻夫『乱れからくり』読了。

乱れからくり (創元推理文庫)

乱れからくり (創元推理文庫)

 個人的な意見ですが、本格推理小説は「ロジック派」と「トリック派」に分けられると考えています。「ロジック派」というのは手がかりから犯人を導き出す過程――すなわちロジックを重視する一派ですね。エラリー・クイーンあたりがその代表でしょうか。

Yの悲劇 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

Yの悲劇 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 一方「トリック派」とは派手なトリックを作品の中核に据える一派です。「ロジック派」が「納得」を売りにしているとすれば、「トリック派」の売りは「感嘆」や「驚愕」でしょうか。そしてその意味では、今日取り上げる『乱れからくり』は「トリック派」に分類されるはずです。

 そもそもタイトルからして「トリック派」であることを思わせます。さまざまな「からくり」が入り「乱れ」るわけですから。実際さまざまな大仕掛けがあらわれて、物語の根幹を作っています。

 もちろん「トリック派」とはいえ、単純にひとをびっくりさせるわけではありません。作品中にあらわれる「からくり」たち――そのひとつひとつが驚くべきものであるのはもちろんのこと、より大きな「からくり」を駆動させる部品にしか過ぎないのです。

 無作為に「トリック」がちりばめられただけの物語が徐々に巨大な「トリック」の姿を暴いていく。本作の醍醐味はそこにあるといっても過言ではないでしょう。

 またミスディレクションの多彩さにも感心しました。思い込みの裏をかくことほど、人を驚かせるものはありません。それを多種多様に用いるあたり、「トリック派」の面目躍如(?)ですね。

 稚拙な表現ですが、「おもちゃ箱をひっくり返したような面白さ」という表現が本作には合うような気がします。物語中に散らかされた「からくり」――散らかされたように見える「からくり」――が最後にもたらす「感嘆」を是非味わってみてはいかが?