nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

ポール・ケイン『裏切りの街』読了。

裏切りの街 (河出文庫)

裏切りの街 (河出文庫)

 訳者あとがき(村田勝彦)曰く

本書『裏切りの街』は、ダシール・ハメットレイモンド・チャンドラーを世に送り出した"ハードボイルド発祥の地"ともいうべき『ブラック・マスク』誌に、1932年に5回にわたって分載され、翌年の33年にダブルデイ=ドーラン社より単行本として刊行されたハードボイルド・クライム・ノヴェルの幻の古典である。そして、ポール・ケインが書いた唯一の長編小説である。(p.255)

 ポール・ケインという名前は小耳にはさんでいたのですが、長編が残っているとは思いませんでした。しかも邦訳があるという。なんという幸運。時にはブックオフの100円コーナーも見てみるものですね。思わぬ掘り出し物でした。

 個人的な感想としては、冷徹な文体に舌を巻きました。短文で小気味よく、そして客観描写に徹している。レイモンド・チャンドラーが「超ハードボイルド文体」と評したのもうなづけます(これも訳者あとがきの受け売り。pp.257-258)

 また物語のスピード感にも驚きました。とにかく展開が目まぐるしい。ちょっと油断していると、何が何だかたちまちわからなくなりそう。

 「流れ者の主人公ケルズが陰謀の中で自らの信念を貫きとおす」ハードボイルド文学にありがちな話とはいえ、それを「冷徹な文体」と「スピィーディな物語」に包むことで、これほどの化学作用になるとは思いませんでした。やはり「古典」は「古典」たるゆえんがあるのです。

 最後に訳者あとがきから勉強になったところを引用しておきます。

ぼくにとって本書のおもしろさは、まず第一にストーリーにある。"不況と混乱の時代"、あるいは"ギャング・エイジ"と呼ばれる30年代のロサンジェルスで、ひとりの男が市政界とつながりを持つ組織の陰謀に巻き込まれ、反撃に出て組織を相手に戦う。その戦いぶりのタフさ、したたかさ。魅力的なシーンも続出する――賭博船、クラップス、ボクシングなど。・なかでも、当時"浮かぶカジノ"と呼ばれた賭博船は最高の"大道具"で、後年、チャンドラーも「犬が好きだった男」と『さらば愛しき女よ』でつかっている。(p.257)

 チャンドラー『さらば愛しき女よ』の賭博船は有名ですが、ここから影響されていたとのこと。知らなかった……

さよなら、愛しい人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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