nekoTheShadow’s diary

IT業界の片隅でひっそり生きるシステムエンジニアです(´・ω・`)

コーマック・マッカーシー『越境』(ハヤカワepi文庫)

越境 (ハヤカワepi文庫)

越境 (ハヤカワepi文庫)

コーマック・マッカーシーの作品は日本的ではない独特の雄大さ、いいかえればアメリカ南部的な雄大さがあり、非常に気に入っています。本作にもその雄大さが存分に表れており、楽しく読むことができました。

マッカーシーはいわゆる純文学作家であり、ノーベル賞にもっとも近い米国人作家のひとりともいわれます。そうした世評からすると、小難しそう・ややこしそう・つまらなそうという印象を抱くかもしれませんが、それは間違い。本作も含め、マッカーシーの作品は起伏にとんだストーリーがあり、エンターテイメント作品としても十分成立するほどです。実際映画化された作品もありました(『血と暴力の国』)

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

また個人的なお気に入りポイントとしては彼の文体。読点=カンマを使わない、会話文をクオートでくくらない、そもそも地の文と会話文の区別がないなど、その独特の文体は一度はまると妙な癖になります(なお日本語では訳者が適宜句点を足しています。もっともそれでも異常なほどに少ないのは変わりませんが)。わたしの文章はよく句読点が少ないといわれるのですが、完全にこの影響です(´・ω・`)

Bill Karwin『SQLアンチパターン』(オライリー・ジャパン)を読んだ。

SQLアンチパターン

SQLアンチパターン

アンチパターン集、つまりは「べからず集」です。決して「あるある集」ではありません(´;ω;`)ウッ…

システム開発において、比重が大きいにもかかわらずないがしろにされがちなのがデータベース。わたしのような業務系SEだと「たくさんのデータがあって、そのうえにアプリケーションをのせる」ということが多いので、DB周りがいい加減だと、あとあと泣きを見ることになります。というか現在進行形で泣きを見ています。ちくしょうめ(´・ω・`)

DBに限らず、世の中はベストプラクティス集にあふれています。理論に裏付けされた最善策を学び実践することは大事ですが、やってはいけないことを学ぶことで見えてくることもあります。むしろ「やってはいけないこと」を避けるだけで少なくとも大炎上は避けることができるはず。システム開発に欠かせないがためにその影響範囲が大きいRDBMSだからこそアンチパターンを学ぶ意味があるのだとわたしは思います。

ちなみに現在参画中のプロジェクトですが、本書に掲載されているアンチパターン「EAV」を利用しており、そのアンチパターン部分が見事にボトルネックになっています。メンテナンスも拡張も難しくなるし、なぜITアーキテクトは「EAV」を採用してしまったのか。本書を読んでいればそのデメリットがいたいほどわかったはずなのに――そういう意味でも感慨深い本でした。

まつもとゆきひろ『言語のしくみ』(日経BP社)が面白かった。

ひげ面の男性が正面に向けて指をさしているという、まるで自己啓発書のような表紙ですが、中身は驚くほどちゃんとした技術書です(失礼)。むしろ本書を読むと、プログラマとしての能力が向上する(少なくともそんな気分にはなる)という点では、下手な自己啓発書より自己啓発の役に立つかもしれません。

面白かったです。「プログラミング言語を開発する」といっても、がちがちに理論が解説されたり、ツールの使い方が懇切丁寧に説明されたりはしません。 「筆者がプログラミング言語をデザインして実装していく過程を眺める」とでもいうべきでしょうか。必ずしも予定調和へ向かわないし、また話が脱線することもあるなど、テイストとしては重々しすぎず「技術よりの読み物」として楽しく読みとおすことができました。また実際のソースコードGitHubに公開されているので、実際に手を動かしてみてもよいのではないでしょうか。わたしは仕事が忙しくて読むだけで終わりそうですが(´・ω・`)

帰省中に読んだ本がどれも面白かった。

あけおめことよろ(´・ω・`) 旧年の振り返り&今年の抱負エントリは別に書くつもりなので、ここでの新年のあいさつは簡単に済ませておきますね。

さて、この忙しい現代社会において帰省中というのはまとまった時間をとれる珍しい機会。読書が趣味のわたしは当然この貴重な機会を読書に費やしました。さて今回の規制期間に読んだ本ですが、そのどれもがあたり! 「10冊読んで面白いのが1冊あるかないか」といわれる読書界(?)において、選んだ本のすべてが好みということはとても珍しいこと。こいつは新年から縁起がええわい(´・ω・`) 今年の運をすべて使い果たしたとかいわないでええ

井上誠一郎・槙俊明・上妻宜人・菊田洋一『パーフェクトJavaEE』(技術評論社)

パーフェクト Java EE

パーフェクト Java EE

まずは技術書から(技術書に関しては何をもって「読んだ」とするのかはいつも議論が分かれるところです。今回は「一通り目を通した」ことを指して「読んだ」としています。つまり実際に手を動かしたわけではありません)

普段はJavaを利用したエンタープライズ向けWebシステムの構築を生業にしている(要するにSIerのSE)のですが、JavaについてはJavaSE_Silverを取得したきり。わからないことに突き当たった場合はGoogle先生にお聞きして知識を補うというように、だましだましこの1年を乗り切ってきました。そういう「Javaをとりあえずで書いてきた」人間にとってはJavaEEの全容を把握するという意味で、非常にいい本だったと思います。同時に「付け焼刃でソースコードを書くこと」の意味を痛感させられる本でもありました。

バルザックゴリオ爺さん』(光文社古典新約文庫)

ゴリオ爺さん (古典新訳文庫)

ゴリオ爺さん (古典新訳文庫)

昨年もっとも話題になった人文書といえばピケティ『21世紀の資本』。その『21世紀の資本』に引用されたことから一部でちょっとしたブームを引き起こしたバルザックゴリオ爺さん』を遅ればせながら読みました。フランス文学の古典というとなんだか難しそう、つまらなさそうという印象を抱きがちですが、本書は大衆小説――というかその走りであり、癖の強いキャラクター、大胆な物語展開などなど、エンタメ的視点から見て非常に面白い作品でした。

アシモフ『鋼鉄都市』(ハヤカワ文庫)

鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336)

鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336)

アシモフといえばロボット三原則を生み出すなど、SFの大家というイメージがありますが、『黒後家蜘蛛の会』を代表にミステリ界隈でも非常に評価が高い作家です。なかでも本書『鋼鉄都市』はSFミステリの金字塔であり、ミステリランキングの類にもよく名前が挙がっている作品です。実際に読んでみましたが、その評価にたがわず面白かったです。ミステリとしてはもちろん、SF的あるいは社会評論的にも興味深い内容を含んでおり、やはり世評というのは馬鹿にできないと思わせました。

高木彬光『呪縛の家』(光文社文庫)

呪縛の家 新装版 (光文社文庫)

呪縛の家 新装版 (光文社文庫)

高木彬光が生み出した名探偵神津恭介。本書はそのシリーズ長編第2作です。デビューして間もないということからやや若書きの感がありますが、しかしその「若さ」が本格推理小説という難しいジャンルへ作者を挑ませており、結果として本作を良作ならしめています。また日本の片田舎の旧家というきわめて日本的――というか日本の本格推理小説的な舞台を採用しており、そういうオカルトちっくなものが好きな人にもお勧めです。

以上4冊ですね。実はもう1冊読み止しの本があるのですが、その紹介はまたの機会に。といいつつ面白くなかったらどうしようかしら(´・ω・`) そうならないことを祈るほかないですね。

Piro『まんがでわかるLinux シス管系女子』『まんがでわかるLinux シス管系女子2』(日経BP社)が意外によかった

まんがでわかるLinux シス管系女子 (日経BPパソコンベストムック)

まんがでわかるLinux シス管系女子 (日経BPパソコンベストムック)

まんがでわかるLinux シス管系女子 2(日経BP Next ICT選書)

まんがでわかるLinux シス管系女子 2(日経BP Next ICT選書)

何の気なしに1巻を買ったのだが、読んでみると意外によかったので、2巻も買ってしまった(´・ω・`)

この手の「まんがでわかる」系はちまたにあふれているのだが、どうしようもないほど低品質なものも多い。一方本書はBash(シェル)を書いていてはまりやすいところ――というかわたしが実際にはまって苦労したところが丁寧かつ順序立てて解説されており、UNIX初心者はもちろんのこと、なんとなくでシェルやBashを書いてきた人(要するにわたし)にもおすすめできる。

またいわゆる漫画読みではないので詳しい論評は差し控えるが、まんがとしてもレベルが高いと思う。キャラクターもかわいいし。

自分がよくいく大型書店に関する雑談

いまやインターネットでなんでも変える時代だが、家電と本だけはどうしても実店舗で買いたい派である。本を買うのに便利なアマゾンではなくわざわざ本屋まで足を運ぶのは、本屋が地域社会における文化インフラであり、ゆえに地域社会の一員として買い支えねばならないと考えているから――とかそういう高邁な理由ではなくて、書店それも大型書店にあこがれがあるというだけである。

わたしが生まれ育ったのは大阪の片田舎。書店といえばうなぎの寝床のような店内に雑誌とわずかな漫画単行本が並んでいるだけというのが日常で、読みたい本はブックオフで探すか図書館で借りるかのふたつにひとつ。そういう環境で育っているため、漫画小説新書理工書なんでもそろう大型新刊書店で本を選んで買うという行為に妙なあこがれがある。社会人になって上京した今でも大型書店へのあこがれは断ちがたく、そのために本はインターネットやアマゾンではなく、書店で買ってしまうのである。

余談が過ぎた。要するにいまだに大型書店に興奮する田舎根性が抜けていないというだけである。そこで(?)自分がよくいく大型書店を紹介したい。

まずは立川のジュンク堂。ここは面積が広いこともさることながら、小説文芸系に注力しているのが個人的には好みである。またコンピュータ系の技術書の品ぞろえがよいのもプログラマ的にはポイントが高い。文句をつけるとすれば立地だろうか。ジュンク堂立川店だが、高島屋の6階にあり、それに合わせてハイソな店づくりになっている。もちろん店舗に向かうには高島屋の中を通らねばならないのだが、ここも同じくお上品な雰囲気に包まれており、気後れすることもしばしば。なかでも夏場などは半そで半ズボンでサンダル履きという格好でうろうろするので、場違い感は最高潮である。

なお立川といえばオリオン書房という立川ローカルの大型書店チェーンもある。立川駅前に数店舗あるのだが、そのうちのひとつに妙に洋書が充実している店舗があり、米文学専攻の大学時代はよく足を運んでいた。洋書以外の小説や技術書なども前述のジュンク堂とそん色ないのだが、最近は足を運んでいない。なぜか。これも大した理由はなく、単にジュンク堂のポイントカードを作ったから。できるだけポイントをためたいという俗物根性がジュンク堂へ足を運ばせているのである。

立川以外だと多摩センターの丸善にもよく行く。ここは書籍はもちろん、文房具の品ぞろえがいい。1.6の油性ボールペン、極太の水性ペン、100枚つづりのリングノートなどなど、わたしの文房具の趣味は少し変わっており、一般的な文房具店では販売されていないことも多いが、ここでは手に入らないということはまずない。それぐらいマニアックな文房具までそろっているのである。

自宅から近いということもあり、基本的には満足なのだが、一応文句もつけておく。まずはレジがいつ行っても混んでいる。店舗面積&駅前という好立地のわりにレジが少なすぎるのである。くわえて店員のサービスが丁寧すぎると感じることもあり、これがレジの混雑に拍車をかけていると思われる。もう一つ文句としては――これは丸善は何も悪くないのだが――多摩センター駅周辺に飲食店が少ないことがあげられる。買った本を喫茶店で読もうと思っても、近場のスタバとエクスオールカフェは激混み。また京王線小田急線と多摩モノレールが乗り入れるターミナル駅の割にレストランの選択肢が少なく、いつも坂内食堂へ行っている気がする(もちろんこの坂内食堂も超混んでいる)。

最後に丸善川崎店。通勤定期が使えるのでありがたいのだが、店舗面積と品ぞろえという点は立川や多摩センターとは見劣りしてしまう。とくに川崎という立地上、ビジネス書や自己啓発書が多いのはいただけない(あくまで個人の感想です)。ただしさすがに川崎ということで、飲食店はかなり充実しており、喫茶店にもランチにも困らないのはよい。こってり系のラーメンを食べた後にドトールのアイスココアを飲みながら、買ったばかりの小説や技術書を読む。大阪の片田舎では考えられなかった日曜のひと時を過ごせるのは大都会川崎ならでは。まあ最近は休日出勤が多くてそれどころではないのだが。がってむ(´・ω・`)

最近読んだノンフィション: 『しんがり: 山一証券最後の12人』『住友銀行秘史』『戦地の図書館: 海を越えた一億四千万冊』

最近読んだ本のうち、面白かったノンフィクション3冊を簡単に紹介したいと思います(´・ω・`)

清武英利『しんがり: 山一証券最後の12人』(講談社+α文庫)

山一証券の倒産といえばバブル崩壊の代名詞ですが、本書は崩れゆく山一証券において倒産の真相究明と精算業務を担った社員たちを描いたノンフィクションです。会社はもはや存在しないにもかかわらず、その原因を突き止めようという行動と心意気には感動しました。また大企業が倒産するときのドキュメントとしても面白く読めました。

國重惇史『住友銀行秘史』(講談社)

住友銀行秘史

住友銀行秘史

山一証券と同じくバブル経済の代名詞がイトマン事件。本書はイトマン事件にいち早く感づき、真相を究明すべく走り回った住友銀行の元重役が自ら書き下ろした1冊です。事件の当事者が書いているためリアリティは満載。子飼いの中堅商社を通じて財閥系銀行の金が闇勢力に流れたのは、単にバブルのあだ花というだけではなく、あらゆる時代に普遍的な人間関係のもつれや欲望の対立があったということがよくわかります。

モリー・グプティル・マニング『戦地の図書館: 海を超えた一億四千万冊』(東京創元社)

戦地の図書館 (海を越えた一億四千万冊)

戦地の図書館 (海を越えた一億四千万冊)

時代はうってかわって第2次世界大戦中のアメリカ。当時のアメリカは戦意高揚のため、戦場に向かう兵士向けの「兵隊文庫」を創設したのですが、本書はその兵隊文庫が兵士たちにどのような影響を与えたのかを描いています。銃弾の飛び交う戦場において兵隊文庫は兵士たちの唯一の娯楽であり、兵士たちがその兵隊文庫をいかに楽しみにしていたのかというエピソードには強い感動を覚えました。